イエスキリストの誕生を思う(その2)

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別のシナリオ

この学級には人一倍律儀で恩を決して忘れない生徒takuくんがいる。彼は責任感が強くやり始めたことは必ず最後までやり抜く根気強さと不屈の精神を持っていた。一つだけ難があるとすればそれは彼の気性。普段は温厚なのだが怒ると誰も止められなくなってしまう。そして手をあげてしまう。takuくんはこのホームルームがスタートした時、すなわち3年の1学期、寮長に選出された。良いリーダシップで集団を導き同級生からも後輩からも慕われ一目置かれていた。ところがあることが起こってtaku君は2学期の前半に手をあげる、所謂暴力事件を起こしてしまった。このことが問題となり無期限の謹慎指導になってしまった。指導の内容を伝えるためtaku君と一緒に沖縄の自宅に向かった。taku君が如何に慕われ良い働きをしてきたかをお母様に伝えその上で暴力は社会に出れば即犯罪として扱われてしまうのでここで良い反省をしましょう、という趣旨の話をした。よくご理解くださり面談を終えた。その後、本人や家族の意向もあり2週間に一度は彼のところに家庭訪問し学習課題を一緒にしたり近況を報告し合う様校長より指示された。最初のうちは彼も良い反省をして課題にも積極的だったが10月頃から少し希望を言うようになった。
「先生、僕学校に戻りたいんですけど無理ですかね?」
「そうだね、いまは少し難しいかも知れないね。でも時がきたら教師会に提案してみるからもう少し待ってね。」
と諭すように言った。素直に聞き入れ
「先生、お願いします」
と涙目で頭を下げた。教員にはいろいろなタイプの人がいるので「暴力」と聞いただけで心を閉ざしてしまう先生もいる。彼の人間性や事の顛末を理解しようとせず「暴力」は「排除」と言う短絡的な発想になる先生が多かった。その様子を知っていたから教師会に提案するのは少し難しいと考えていた。次の家庭訪問でもtaku君は同じことを言ってきた。
「まだ教師会には提案していませんか?是非お願いします。」
また哀願されてしまった。難しいだろうと思いながらtaku君の願いなので色々な理論武装をして少しだけ根回しもして思い切って11月のある教師会で提案してみた。同情的な意見もある中でやはりtaku君の学校生活復帰は困難だと実感した。このまま学校に戻ることに固執したら保証されている卒業まで危うくなってしまう。とりあえずその場は一旦取り下げ次週の教師会に再提案することにした。その前にまたtaku君の家庭訪問をした。教師会の様子をオブラートに包みながら、でも少し難しかった、とだけ伝えた。すっかり肩を落としたtaku君は泣いていた。彼は心から自分の学校を愛していた。また仲間を愛していた。この涙を、反対票を投じた先生たちにみてもらいたいと思った。そして2回目の教師会提案。やはり難しかった。叶わなかった。しかしこれをtaku君にどうやって伝えようか、本当に悩み苦しむ日々が続いた。そして1つの結論に至った。この判断は決して良い判断ではない。良い判断ではないと言うより組織人として決してしてはいけない判断だ。それは十分理解していた。でもtaku君と教師会の気持ちの両方が理解できる自分にはこの方法しかなかった。今だったら恐らく別の判断をしていたと思うがまだまだ未熟な教員なので仕方ない。学校に内緒でtakuを自宅に宿泊させる、そして最後のホームルームパーティーのときだけ担任ができるクリスマスプレゼントとしてtaku君に登場してもらうと言うサプライズ企画。これが「別のシナリオ」だ。ホームルームパーティーの途中「担任からのクリスマスプレゼント」と言うコーナーを入れてもらった。クリスマスケーキに入刀する前に私が
「今日が最後のホームルームパーティーだけど、何か足りない気がしない?」
と質問してみた。勘が鈍いのかわざとなのか
「先生の元気」
と答えた生徒がいた。
「それもそうだけど…」
と言うと数名の生徒が
「taku君」と言ってくれた。
「そうだね、takuがいないとこのクラスは全員とは言えないよね。で、今日はtaku君に電話をしてみましょう。」
と言って校舎のトイレに隠れているtaku君に電話をする。
「もしもし、taku君?元気?今何しているの?」
などとどうでもいい会話をしている途中でtaku君が
「パーティーか、いいな!僕もそこに行きたいよ。」
「じゃ、来ちゃいなよ」
と言うと
「うん、行くよ」
と言ってtakuが教室の後ろのドアを開けて入ってくる。
「えー、きゃー、おー」
などの奇声が教室に響き騒然となる。一部の男子が泣いている。ずっと会いたかったらしい。勿論、学級の生徒にもtakuにもこのことは絶対に誰にも言わないこと、と念をおした。実はこのシナリオがあったので救急車に乗れなかったのである。事故の時も、その後も帰りの遅い自分をtaku君は私の家でずっと待っていたのだ。taku君がいる以上何としても、彼と学級の生徒を会わせなくてはならない。その後で自分が命を落とすならそれでも構わないと本気で思っていた。パーティーも終わりtaku君と一緒に逃げるように自宅に戻った。家に帰っても痛みと吐き気で眠れなかった。翌日、taku君を沖縄便の飛行機に間に合うよう公用車を借りて送り届けその後あまり記憶がない。多分同僚にお願いして病院に連れて行って貰ったと思う。足は打撲だけだった。肋骨と肋軟骨の骨折。吐き気が引くまで3日間の点滴入院になりその後も治療やリハビリに通った。今でもあの事故現場を通るときにtaku君のことを思い出す。taku君はその後も何かにつけて連絡をしてくれる。

イエスキリストの犠牲

自分は骨折程度で済んだけどイエスキリストという人は人を愛するあまり自分を十字架で殺してしまった。人の罪を贖うには罪のない血が必要であったからだ。自分のような無価値な人間の、いや人間未満の存在であるこの不良品のために命を投げ出してしまった。間も無くクリスマスのシーズンである。何故か愛する人と過ごすことやプレゼントが強調されるクリスマス。しかしこの日は無価値でどうしようもない人間未満の自分のために十字架の死に向かって歩まれるイエスキリストの誕生日なのである。世界中の人が、この日にイエスキリストという人、あるいはこのかたの愛に心を向けてくれたら、と願うばかりである。

聖書アプリ

聖書アプリをスマートフォンに導入していただけただろうか。是非特別な年2020年のクリスマスを記念して聖書アプリをインストールしていただきたい。今回紹介したいのは以前同様「YouVersion」という聖書。そして運転中にも聴ける「ドラマ聖書」のふたつである。どちらも無料。YouVersionはオフラインで使用できるがドラマ聖書はネットに接続する必要があるのでその点だけ注意が必要。そマートフォンで「聖書」あるいは「聖書アプリ」と検索するとこの2つは上位に出てくるのでダウンロードしていただきたい。