母は涙乾く間なく

長かった反抗期

自分は小さい頃から家族が大好きだった。祖父母、両親、兄弟、そして職人さんと一緒に住んでいたのでなかなかの大所帯だった。いつも家には全員がいて明るくて暖かい家庭だった。だから家を離れることが苦痛で仕方なかった。家にいることが何よりも好きでいつもハンドバッグを作る両親祖父母の側にいて話をするのが大好きだった。そのような子どもだったから保育園に行くのが大変だった。保育園は何と言ってもお昼寝があって園にいる時間が長い。それが苦痛で仕方なかった。だからいつも保育園を脱走していた。母と一緒に保育園に行くのだが母よりも早く家に帰っていることすらあった。毎日泣きながら保育園に通っていたので両親も可哀想に思ったのか執拗には行かせなかった。そんな家族大好き少年だったが、いつの頃からか長い反抗期が始まった。それも母親に対して。非常に悪い態度をとって母を困らせていた。特にひどかったのは浪人時代だったと思う。大学に落ちたのは自分の責任なのに、なぜか社会に対して反抗心があった。そして社会の代表としてなぜか母を敵視するようになってしまった。本当は好きなのに何故か素直になれなくて「うるせーな」「邪魔だから向こうに行けよ」などと悪態をついていた。大学後半には少しずつ落ち着いたが、母が喋るとイライラすることは変わらなかった。そしてそれが大人になってからも続いた。「少しうるさいよ。わかっているから黙っていて」などと悪い態度を取り続けていた。心の中では「お母さん、ごめんなさい」と言いながら…。自分は肉が食べられないのだが、それは浪人時代に端を発している。浪人中のある日、夕食がすき焼きだった。少し嬉しかったのだがここで嬉しそうな顔をしてはいけないと思い「なんで中学校、高校と菜食主義の学校に行って自宅に戻ったら肉が出るんだ」と少し怒ってみた。全然本心ではない。ところが母が「そうだったわね」と小麦粉で作る「グルテン」を持ってきて私だけ別メニューになってしまった。本当は牛肉が食べたかったのに。しかし、自業自得である。それ以降我が家では私だけ肉のないメニューになってしまった。そして1年間肉を食べなかったら急に肉が嫌いになってしまったのである。

今日の電話

今日は3月30日、父の91歳の誕生日だった。事前にプレゼントを送っておいたのだがそのお礼の電話が掛かってきた。しばらく父と話していたが「じゃあ、お母さんにかわるよ」と言って母が電話に出た。認知症の母なので何度も同じ話をループするのだが、今日は夫婦関係のことを中心に話した。「どうしても別れるの?あんただって病気なんだし一人で生活して行くのは辛いでしょ」「子どものためにも夫婦で生活できる努力をしなさい」などと何度も同じことを言われた。昔だった「うるさいな」「もうわかったからあっちに行けよ」と言っている場面である。しかし今は違う。「そうだね」「お母さんの言っていることが正しい」と相槌を打っている。「すぐには回復しないかもしれないけれど、根気強く奥さんと話し合ってごらん。必ず分かり合えるから」とも言う。今は離婚届が送られてきて、サインをしないから毎日のように催促の連絡が来ることを知らない母はそんなことをアドバイスしてくれる。しかし、素直な気持ちで聞いていると本当にそんな気がして来る。「もうそう言う段階じゃないんだよ」と言いたいけれど、よくよく聞いてみるとイエス様が弟子たちに言った言葉にダブって聞こえる。イエス様は、一晩中漁をしても魚が獲れない弟子たちに向かってもう一度網をおろすことを命じられた。漁師の力量からいえば弟子たちの方がはるかに優れている。いわばプロフェッショナルの弟子たちが一晩中網を打っても魚が獲れなかったのである。しかしお言葉ですからと網をおろしてみるとおびただしい量の魚が獲れ船が沈みそうになるのである。母の言葉が、その時のイエス様の言葉に重なった。もう一度コンタクトをとってみようかな、と思った。母とは40分ぐらい話したがずっと泣いていた。本当に申し訳ない。

母は涙乾く間なく

母だけではない。父もそうだ。超高齢のふたりが57歳の息子のために涙を流しながら不憫に思い同情してくれる。そして涙を流しながら祈っていてくれる。自分はいつになっても親を越えられないと痛感した。両親の涙が自分を子どもでいさせてくれる。「ずっとお父さん、お母さんと一緒に住んでいたらいいよ」とも言っていた。「仕事をしないと子どもの学費が払えないから」と言うと「そうだね」と納得しながらもまた涙声で「あんたがかわいそうなんだよ。いいからうちに帰っておいで」と言ってくれる。自分のような不良品がいる限り本当に両親は涙乾く間なく祈り続けないといけない。ありがたいし、勿体無いし、申し訳ない。

幻の影をおいて

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