生徒を救った消費税

家計急変

本校の学費は他の寮制の学校に比べると比較的安い方に入る。安いと言っても平均で、現在中学生が10万円、高校生が11.5万円ぐらいかかる。これに音楽レッスンや教材費がかかる生徒もいる。通学制の私立中学、高校がどれぐらいかかるのかは分からない。学費の他にお小遣いや塾の費用を含めると結構な負担になるのかもしれない。決して安くない学費を親御さんは毎月支払ってくださる。毎月Macbook Airが買えるような金額。3年間でレクサスが買える金額である。大変な負担である。3年間、あるいは6年間生徒さんをお預かりしているとご家庭の状況も色々と変化することがある。ご家族の病気や急な介護生活。以前高校で担任したホームルームは非常に面白い構成の学級だった。生徒ではなく親御さんのお仕事だ。IBM社員が3名、モトローラー1名、アップル1名、HP2名、intel2名、SONY1名、東芝2名…。学級の半分が半導体関連のお仕事をされていた。3年Aクラスだったが、通称「シリコンバレー」。PTAの学級懇談会ともなると半導体の話が結構出てくるので非常に興味深く聞かせていただいていた。当時IBMの経営が左前になり、IBM勤務のひとりのお父様が50歳前半の若さで希望退職を迫られていた。息子さんを2名本校に送ってくださっていたからかなり深刻な状況になった。結局このご家庭は定期預金を崩してお父様が新しいお仕事を見つけることで切り抜けることができたが、このような所謂家計急変は珍しいことではない。教員になって日が浅いある年、F君を担任した。彼のお父様は税理士さん。都内の税理士事務所に勤めF君と妹さんを本校に送ってくださっていた。彼は勉強には苦手意識を持っていたものの明るくて、奉仕の精神に溢れた気持ちの良い青年だった。体を動かして働くことが大好きで当番でもないのに寮から出るゴミを片付けたり、大きな荷物を運んでくれたりととても信頼できる素晴らしい生徒であった。ある時彼がいつもとは違う表情で私のところに来た。
「少し話を聞いていただけますか」
「大丈夫だよ。時間はあるからゆっくり話して」
彼は自分の家庭のことを話し始めた。税理士事務所に勤務するお父様の収入は高い水準で安定しており生活に困ることはなかった。しかし、しばらく前にお父様は職場を退社されたという。個人の事務所を開きたいという夢を持っていらしたようでその夢を実現できるぐらいのお金も貯まり、年齢的にもチャレンジするにはさほど時間がないというタイミングだったので独立されたとのこと。ところが思ったようには顧客がつかず収入が激減しているとのこと。このままだと自分たち兄弟は学校を辞めて地元の公立高校に通うことになる、と話してくれた。F君は泣いていた。

とにかくできることを

話しを聞いて何とかしないといけないと思った。親御さんからの要請があれば学校として対応できることをすぐにすることを約束し、今受けられそうな貸付の奨学金を調べた。これを親御さんに紹介して何とかなるものなのかを判断して欲しいとお願いした。親御さんも必死に金策に走ったという。なかなか目処は立たなかったが何とか貸付の奨学金と学校の特別奨学金で急場をしのいだ。しかしこれは急場凌ぎの策で抜本的な解決ではない。お父様も顧客の獲得に奔走しアルバイトもされた。安心できる状態ではないが低空飛行で何とかやっていけるギリギリの線を行ったり来たりしていた。私は毎日F君と一緒に祈った。必死に祈った。私たちの神様は天の倉を開いて溢れるばかりの恵みを注いでくださると約束してくださっている。その約束を信じ、その約束にすがるように必死に祈った。祈り続けた。

消費税が救う

祈り続けて数ヶ月が過ぎた頃、F君のお母様から電話があった。色々と努力したけど厳しい状況に好転がなかったのでふたりの子どもを引き取ります、という電話かと思い話しを聞いた。電話口でお母様が「先生、大変です。奇跡です。神様が奇跡を起こしてくださいました。」とかなり興奮気味に仰った。何でも、かつて日本にはそのような制度がなかったが今度新しく消費税なるものが導入されるとのことだった。なんとなくそういう話は聞いたことがあったな、程度の理解だったがこれがF君の家庭にはとんでもない事だった。消費税を導入したことがない日本の企業、商店などは急に対応を迫られているとのこと。そして多くの人が税理士事務所を訪れそのシステムと導入に関して質問に訪れ顧問になって欲しいと依頼して来ている状況だという。F君のお父様も同様だ。あれほど走り回っても顧客の拡大には繋がらなかったのに今は顧客からの依頼を断らなくてはいけないほどになってしまった。結局この消費税騒動でF君の家は以前の事務所勤務よりも多くの収入を得ることができるようになったという。消費税という消費者からはおよそ歓迎されない制度がある人たちを間違いなく救ったのである。正に神様が天の倉を開いて恵みを与えてくださった出来事だった。

何があるか分からない

良くも悪くも人生には何が起こるか分からない。思い通りにいかないとき、全ての道が閉ざされてどうにもならなくなってしまった時、全てを失った時、「もう死ぬしかない」と思ってしまう。自分がそういうタイプなのである。世の中が、富と権力を持った人によって支配され動かされているのならそう思っても仕方ない。しかしそうではないと思っている。この世界、この宇宙は聖書に出てくる「神」が支配していると本気で信じている。「宗教を信じる奴はこれだからおめでたい」と揶揄されることを覚悟の上で、私は神はいると断言したい。だから今まで自分の身に起こった理不尽なことも苦しみながら、自殺を考えながらもなんとか受けとめることができた。神がいるからだ。人は単なる偶然と言うかもしれないが目に見えない世界を信じる自分には偶然はない。本気で神様を信じる人がひとりでも増えることを切に願うばかりである。もうお亡くなりになったが三浦綾子さんは小説「孤独のとなりの」の中で次のように言っている。

人生には若い人も、老人も、病人も、健康な人も時には大変な困難にあうことがある。(もう駄目だ!絶望だ!)と叫びたくなることがある。が、いかなる場合にも自分の人生を投げ出してはならない。人生には、どんなことが起こるか測りしれないのだ。</font color=“blue”>

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